大判例

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大阪地方裁判所 昭和27年(モ)1594号 判決

債権者 富国生命保険相互会社

債務者 大山吉雄 外一名

一、主  文

債権者と債務者等間の昭和二十三年(ヨ)第九三九号不動産仮処分事件につき、当裁判所が昭和二十三年十二月九日なした仮処分決定は、これを認可する。

訴訟費用は債務者等の負担とする。

二、事  実

債権者訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として、債権者は昭和二十一年六月二十二日債務者大山吉雄に対して債権者所有にかゝる大阪市北区小松原町二十七番地宅地千百七坪四合の内東北部三百坪を、

(1)  賃貸期間 昭和二十三年六月二十二日迄

(2)  賃料 一ケ月一坪につき金五円、毎月五日払

(3)  用途 臨時商店向バラツク式仮建築建設

等の条件にて賃貸した。そこで債務者大山は、右土地上に合計二十一戸の臨時商店向バラツク式平家及び一部二階家を建築し、これらを債務者野村卯三郎外十八名に夫々賃貸した。ところが債権者は債務者大山が、其後右契約期間の延長を請求し、或は契約外の建物建築を計画しようとしている等の風評を聞いたので、右大山を相手方として、大阪区裁判所に訴提起前の和解の申立をなしたところ(昭和二十一年(イ)第一一〇号)、昭和二十一年九月三十日債務者大山は右契約条件を認め、こゝに和解が成立した。そこで債権者は、右契約による本件土地明渡期限が到来した昭和二十三年六月二十二日に、債務者大山に対しては、建物収去土地明渡を、債務者野村等に対しては、本件家屋より退去して土地を明け渡すべきことを求めたが、何れもこれを肯じないので、同年十二月二十八日債務者等に対し、大阪地方裁判所に右明渡の本訴を提起し(昭和二十三年(ワ)第二〇三八号)、昭和二十七年四月二十三日債権者勝訴の判決があつたが、債務者等の控訴により、目下大阪高等裁判所に係属中であるところ、若しも債務者等に於て、右土地建物を転貸したり、或はその占有名義の変更をなしたりするときは、たとい右本訴に於て勝訴しても、右土地の明渡を受けることは極めて困難であるから、右本案請求権を保全するため、本申請に及び保証として有価証券二十万円を供託した上で、主文第一項掲記の「前記土地建物について債務者等の占有を解いて、これを債権者が委任する執行吏に保管させる。

執行吏は債務者等の申出があつた場合には債務者等が右物件の現状を変更しないことを条件として債務者等が使用しているままで保管することができる。

右の各場合に執行吏はその保管していることを公示するために適当な方法をとらねばならぬ。

債務者等は右物件の占有の移転、その他一切の処分をしてはならぬ。」旨の仮処分決定を得た。と述べ、債務者等の主張に対し、

債務者等は、本件土地明渡に関し本案訴訟が足掛六年にも亘つて係属しているのに拘らず、昭和二十七年十一月十五日大阪高等裁判所に於て、初めて債務者野村の居住する家屋の敷地につき別個の賃貸借を締結したと云う主張をなしたのは、故意に訴訟を遅延せしめるためになしたこと明かであるから、この抗弁は本案訴訟に於て当然時機に遅れたものとして却下さるべきこと従つて本件に於ても、仮処分決定がなされてより荏苒五ケ年を経過して後突如該主張がなされたものであることを併せ考えると、かゝる主張自体却下を免れないのである。仮りに百歩を譲つて、右主張が却下されないものとしても、当初の賃貸借契約又其後の和解に於ても、債権者が債務者大山に貸与した三百坪の土地の内には、債務者野村の現住家屋の敷地も包含されているのであるから、債権者は右の敷地に関し債務者大山と別個の賃貸借契約を締結する筈がない。従つて右契約条件を再確認せる和解は、勿論有効であり、結局右決定は至当であるから、その認可を求めると述べた。<立証省略>

債務者等訴訟代理人は、主文第一項掲記の仮処分決定を取消す、債権者の申請を却下する、訴訟費用は債権者の負担とする。との判決を求め、答弁として、

債権者主張の事実中債務者大山は、債権者と債権者主張の如き内容の賃貸借契約を締結し、その目的物上に二十一戸の家屋を建築してこれを他人に賃貸したこと、債権者主張の日時に、右賃貸借に関する和解がなされ、これに基いて和解調書が作成されたこと、本件土地明渡に関し債権者主張の如き本案訴訟が係属中であること、債権者は右本案請求権を保全するため、大阪地方裁判所に仮処分申請をなし、その主張する如き仮処分決定を得たことは、何れもこれを認めるが、他はこれを争う。と述べ、異議の事由として、

抑々債務者大山が、昭和二十一年六月二十二日、債権者より賃借せる本件三百坪の土地の内には、債務者野村の現住する家屋の敷地三十坪の部分を含んでおらず、この部分を除いても、他の賃借地の面積は三百坪以上もあり、此処に、債務者大山は二十一戸の家屋を建築したのである。元来右三十坪の敷地は、防火用貯水池であつたから、当初債務者大山が債権者より本件土地を賃借する際には、特にこの部分を除外していたのである。ところが其の後数ケ月を経た同年十月二十三日、債務者大山は、債権者より右貯水池の部分を借受け、自費をもつて、右貯水池を埋め、その上に、債務者野村の現住する家屋を建築したものであるから、右の家屋は前述の二十一戸の家屋とは全然別個のものである。然るに昭和二十一年九月三十日になされた和解調書によると、右野村の居住する敷地も賃貸借の目的物件中に包含されているが、右の部分に関する賃貸借は、和解のなされた後である同年十月二十三日に締結されたものであるから、右部分に関する限り、債務者等はこれによつて拘束を受ける理由が無いのみならず、この和解には賃貸借の目的としなかつた右の部分が包含されているから、その要素に錯誤があり無効と云わざるを得ない。かくて、かゝる和解調書を前提としてなされた本件仮処分は失当であること明白である。尚この別個の賃貸借を理由とする異議は、本件仮処分決定後匆々の間に主張すべきであつたが、これを立証すべき重要な資料を紛失した為、その採索に苦心した挙句、今回に至つて始めてこれを発見したので、こゝにこれを主張する。と述べた。

<立証省略>

三、理  由

債務者大山吉雄は、債権者と債権者主張の如き内容の賃貸借契約を締結し、その目的物上に二十一戸の家屋を建築しこれを夫々他人に賃貸したこと、債権者主張の日時に、債権者と債務者大山との間に、右賃貸借に関する和解が成立し、これに基いて和解調書が作成されたこと、右土地の明渡に関し、債権者主張の如き本案訴訟が係属中であること、債権者は右本案請求権を保全するため、大阪地方裁判所に仮処分申請を為し、債権者主張の如き仮処分決定を得たことは、何れも当事者間に争がない。

債権者は、債務者等の本件異議の主張は、本案訴訟に於て時機に遅れた抗弁として却下さるべきものであり、仮処分決定がなされてより、既に足掛五年も経過した後に始めてなされたものであるから、かゝる主張自体却下は免れないと主張するが、債務者等の本件異議の主張が本案に於て、右の抗弁は却下されたとの疏明がないのであるから、直ちに該抗弁の却下を前提として論断し得ないのみならず、本件仮処分は決定によつてなされたものであるが、かくの如く仮処分が決定をもつてなされた場合には、その裁判の確定と云うことはあり得ないのであるから、債務者等は本件土地明渡に関する本案判決が確定して、債権者がこれによつて本執行に着手するに至るまでは、債権者の本件仮処分申請の取下或は和解等により、申請それ自体が消滅するに至るべき事由の生じない以上、何時でも、この仮処分に対して異議の申立をなしうるものと云うべく、何等時期的な制限を受けるいわれがないのである。そうすると、債権者の右の主張は明らかに失当であるから、これを採用することを得ない。

そこで、債務者野村の現住する家屋の敷地三十坪は、本件賃借にかゝる三百坪の土地に含まれているかどうかを判断する。

成立に争のない疏乙第九号証の二、三並に証人坂井進太郎、橋本峯蔵、国富汲治の各証言を綜合すると、債務者野村の居住する家屋の敷地三十坪には、戦時中軍の命令により、四間四方位の防火用水池が掘られ、そこには、常に水が保有されていたが、終戦後その必要がなくなつた為、近所の人々の塵埃捨場となつたのであり、かゝる状態は、昭和二十一年六月債務者大山が債権者より本件三百坪の土地を賃借し、此処に家屋の建築を始め、同年八月頃臨時商店向バラツク式平家及び一部二階家の建築を完成した頃にも未だ続けられ、何人もこの貯水池を埋立てゝ使用していなかつたこと、又同年十月頃に至つて債務者大山は、松下造船に対し、この貯水池の部分にも家屋を建築して欲しいとの依頼をなしたので、これに基き、松下造船は、土建業中島組にその下請負をさせて、建築することになつたが、先づ中島組は右貯水池の埋立工事を直接請負い、これを完成して後、同年十一月頃債務者野村の現住する家屋の建築を完成するに至つたことが疏明でき、又成立に争のない疏乙第八号証の四、第七号証によると、債務者野村は、右家屋をその建築完成後間もなく債務者大山より賃借して将棋屋を開店し、現在に至つたことが疏明できる。かくの如く、債務者野村居住の家屋の敷地は、もと貯水池であり、そこには本件賃借地上に存在する家屋より遅れて建築されたことは疑う余地がないが、成立に争のない疏甲第五号証よりして、右三十坪の敷地はたとい貯水池となつていたとは云え、当初の賃貸借契約の三百坪の目的物中に包含せられていたことを推認するに難くない。もとより債権者の主張する家屋の戸数は、債務者野村の現住する家屋を含めて二十一戸であるのに対し、債務者等主張の戸数は右野村の家屋を除外して二十一戸であるから、両者間の主張には齟齬の存することは、これを認めざるを得ないが、右認定の通り少くとも債務者野村の敷地は最初の賃貸借契約のうちに包含していたことは明かである。然るに債務者等は右賃貸借契約後右敷地について別個に賃貸借契約がなされたと主張するが、成立に争のない疏乙第八号証の四により真正に成立したものと認められる疏乙第四号証は前記証拠及び疏乙第八号証の四(一部)に照して、建築許可申請の必要上債務者大山の求めにより債権者が既存の賃貸に基き作成したもので、新に該土地に賃貸借を締結したものとは認め難く、又認定に反する疏乙第八号証の四(前記認定の部分を除く)、証人坂井進太郎の証言は措信し難く、他に右認定を左右するに足る疏明がないから、別個の賃貸借契約を締結したことを前提とする債務者等の主張は、他の争点を判断するまでもなく採用することができない。従つて債権者の債務者等に対する本件建物収去土地明渡請求権は、右敷地にも当然及ぶものであると云わざるを得ない。

最後に、右に述べた債権者の本件土地明渡請求権のため、本件の如き趣旨の仮処分の必要性があるか否かについて考える。疏甲第五号証によれば、本件土地賃貸借は、昭和二十三年六月二十一日に終了していることが認められるのに拘らず、債務者大山は債権者の明渡請求に応じないのみならず、弁論の全趣旨から真正に成立したと認められる疏甲第二号証によるとその地上家屋を賃借せる者は、第三者をして各々その賃借建物を第三者に占有せしめようとする形跡のあることが伺われるから、将来における本案請求権の行使を保全する必要があると云える。然も本件仮処分は債務者等の使用を禁止していないから、その執行によつて、債務者等の蒙る損害も少ないのである。

そうすると債権者の本件仮処分申請は理由があり、これを認めて、さきに当裁判所のなした仮処分決定はこれを認可すべきものであるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、同第九十三条第一項本文の規定を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 乾久治 前田覚郎 福井秀夫)

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